佐藤ムツ子展によせて
本間弘行[美術評論家]

佐藤ムツ子は本来自由で、こう言ってよければ風のよう
な線を持ち、またあざやかに色彩をあやつる、観念とい
うよりは野生の人である。
そしてそれは、たとえば今度の個展の案内状にも使われ
ている、黒地に白の、格子のような図柄が描かれた作品
からも感じ取ることができる。
言いかえればそれがどのような図柄を取ろうとも、画面
から立ち上がってくるのは佐藤を通じてあらわれる原始
のにおいであり、もしかしたら佐藤は、まだ手のつけら
れていない未開拓の豊かな自然である。
ただ今回の作品は、そう言い切ってしまうにはやや画面
が整理整頓されてしまっている印象があって、たとえれ
ば女学生のように素直でありすぎている気がして、あざ
やかな野性は隠れて、見ていると私は少し切ない気持ち
にもなってくる。
いったいどうしてこんなに素直なのだろうと思うのだが、
今回の版画の作品に漂う大人しさ、それはひょっとした
ら、何か佐藤にあこがれているものがあるということな
のだろうか。
佐藤が版画という身近だがデリケートな表現に取り組む
のも、自分の野生を人工的に管理するためというよりは、
草原の向こうの森の中から泉をめざして歩くためにだと
思いたい。五年ぶりの版画展だという佐藤は、進んでい
くという決意を確かにしているのだ。

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