長瀬公彦展によせて〜「ゼロの奇蹟」の軌跡
矢部克已(やべ・かつみ)
[ファッションジャーナリスト、星美学園短期大学 特別講師]

 『Spiral 00001』

携帯電話やPC……。それらを介して世界とコミュニケ
ーションを繋ぐインターネットは、すでに日常になくて
はならない装置となっている。別段、環境の進化を否定
するわけではないが、長瀬の作品には、やはり大きなパ
ラダイムシフトを直視した現代の批判が込められている。
では、長瀬は現実から離れた清貧を追究しているかとい
うと、決してそうではない。むしろ、デジタル化したい
まの社会に自分が参加できる範囲で享受している。デジ
タルの基礎的な数値「0」を、長瀬が作品のモチーフと
して選んだ理由は、身近な生活に押し寄せる圧倒的なデ
ジタルの力の結果ではないかと、私はみている。意識や
無意識に関わらず、「0」に触発された背景には、造形
的なフォルムとしての可能性も秘めているだろうし、虚
無の世界から何かが創り出される、静かではあるが、や
がて大きくなるエネルギーを感じているのではないか。
新聞の折り込みチラシなどのフォントから「0」を抽出
して、執拗なまでに貼り重ねる行為。肌感覚でしか伝わ
らない長瀬の身体的な記憶を呼び起こすものといえる。
いまでは否定的な意味が強い、「捏ねくり返す」「やり
直す」……ことを、時間の浪費を惜しまずに、おそらく
迷いながらキャンバスに定着させているのだろう。手を
使って、できる限りの感覚をその指先に伝える。多くの
作品に見られる「粗と密」の構図は、コンピュータ社会
が生んだ、人間関係そのものを俯瞰しているように思え
てならない。 (新潟日報「あーとぴっくす」掲載)

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