赤穂恵美子展によせて
岡田薫子[ファイバーアートインフォクリップ代表]

新潟市在住で染色作家の赤穂恵美子さんには滅多にお会
いする機会が無いが、毎年、東京都美術館で開催される
「モダンアート協会展」の案内状が送られて来ると、今
回はどんな魅力溢れた染色作品が出品されるのか、織姫
星のもとへ急ぐ牽牛星のように、いつも胸躍らせて会場
に向かう。
与謝野晶子の「岬三つかさなれるかな 紫をこころのま
まに濃くうすく着て」という短歌が好きという赤穂さん
は、自然の中で変幻する光に、感受性豊かな心象風景を
映し出した抽象的なイメージを、多彩な色を用いて絹や
麻などの布に染めたタピストリーやパネル作品で発表し
ている。
2006年に新潟市の生涯学習センターに収められ、吹
き抜けに展示されている全長9mの壁面作品「海光」は、
麻を素材に、紅、茜、橙、紫、青紫、青、藍など華やか
な色彩を使って雲や波をイメージした型染めを重ね、引
き染めをほどこし、さらに染布に細かい襞をたたみ、皺
を寄せて布に陰影をつけ、時の移ろいと共に千変万化す
る空の色や水面に映る光の揺らぎを立体的に見せるなど、
繊細な手法を用いて雄大な日本海と光を見事に表現して
いる。
又、常にモダンで洗練された感覚を磨き新しい表現方法
を模索している赤穂さんは、長らく取り組んで来た「書
道」の墨で描いた伸びやかな線や形と、染色を融合させ
ることも実現した。先年開催した個展では、一瞬にして
無限の色に彩られ、宇宙の彼方に飛翔していく白光をテ
ーマに作品を展開。一気に墨筆を走らせた和紙の画面に、
張りのある絹布に引き染めをほどこし、波模様を型染め
して立体的に構成したパネル作品を発表。墨筆の勢いと、
染布のよじれが醸し出す微妙な色の陰影が響き合い、眩
い光の中からドビュッシーの曲が聞こえて来るような音
を感じる空間を具現化した。
赤穂恵美子さんは、主に染色を表現手段としてファイバ
ーアートの世界で30年以上活躍している作家である。
ファイバーアートとは繊維素材を用いて、染めや、織り、
縫い、編みなどで制作したタピストリーやオブジェなど
を云い、芸術作品として鑑賞することはもとより、建築
空間の室内装飾としても需要が多い。
新潟には、越後上布や小千谷縮など伝統的な織物があり、
現在ではその需要を広げつつ高度な技術を次世代へ伝え
て行くという重要な課題があるが、一方でファイバーア
ートのような造形作品に取り組む作家たちも将来に向け
て育っている。 (新潟日報「あーとぴっくす」掲載)


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