田中幸男展によせて
滝沢ナオト


 田中幸男氏の、ストロークによる作品たちは、小品も
大作も、画面に刻みつけられる手の動き、その痕跡が印
象的だ。筆跡と地の部分との空間意識。画面上で重なり
合う透明感ある色彩のバランス。画材に対する水分の比
率と吸収する紙質の相互作用によりさまざまな表情を見
せるマチエール。いろいろな形で作品が提示されるが、
透明水彩やアクリルの筆跡も、それらを白く消すライン
も、一気に、あるいは独特のスピード感をもって引かれ、
何というか、潔い。今回見られる小品の、鉛筆で塗られ
た画面に消しゴムで刻まれた線もまたしかり。
 ストロークによる抽象画面をストイックに追及してき
た田中氏。それは、確立した手法を繰り返すといったも
のとは異なっている。繰り返される手の動きが、手くせ
によるルーティンに堕さない。そこに自己抑制と開放の
ダイナミックなせめぎ合いがある。自らのコンセプト、
デザインによって画面は構築されるのであり、それはす
ぐれて意図的な営みだが、描く痕跡として現れてくるも
のに作者自らが驚き、心を躍らせている。そして、ひた
すら手を動かしていく中で、作者は自分自身を否応なし
に見つめざるを得ない。作品を提示することは、自らを
あきらかにすることでもある。
 悠久に繰り返されているような営み。宇宙も、自然界
も、人の生も、切り取って見れば瞬間によって構築され
ている。そんな刹那に対するいとおしさを感じる作品で
ある。

新潟日報「あーとぴっくす」掲載

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