小川宏 偶形展によせて
藤由暁男(
福島学院大学名誉教授)

「この人の脳の中を一度のぞいてみたい」と何度思った
ことか。数年前の大手術で、脳外科のお医者さんが、ど
うものぞいたらしい。
人生全てに興味関心がある。政治経済に教育など話し始
めたら、話題の豊富さ、話術の巧みさは群を抜く。とに
かくおもしろい。前世は大道芸人ではなかっただろうか。
その一方で、芸術の領域でも非凡な才能を見せ続けてき
たのである。
小川宏に関心を持ったのは15年ほど前の長岡市展であ
る。それ以降、平面、立体、インスタレーションと極め
て多角的に自己の世界を追求し続ける姿を見てきた。そ
して、今回「モノタイプ」作品に出会い、快い感動を覚
えたのである。
アクリル板に済みで描き込む、その上に裏打ち用の紙を
乗せ、ベアリングを埋め込んだ特性のバレンで転写する。
一点限りの作品である。
「偶形」は墨を含んだ筆で描き始める。手の動きに任せ
たストローク手法の線は徐々に上昇し、空間に溶け込ん
でいく。この微妙な空気感は直接描くのと違い、転写す
ることで見えてくる立体感であり、その画面の独特なマ
チエール(絵肌)、物質感、時間表現のためにもなって
いる。
ギャラリーの空間には9メートルにも及ぶ大作2点を含
め十数点が展示される。意欲が触発され、燃焼し、昇華
された小川ワールドの全開となるであろう。その時、開
頭した医師に話を聞いてみたいと思う。

新潟日報「あーとぴっくす」掲載

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