自然への恋慕をふるさとに
松岡達英 手彩銅版画「日本の自然」によせて
鎌田豊成(長岡造形大学名誉教授)

「芸術は科学的認識に縛られれば縛られるほど、真実か
ら遠ざかる」という言葉があって「たしかに」と思わな
いでもないですが、松岡達英さんの作品に触れると、こ
の言葉にいささかの違和感を抱いてしまいます。
忙しい松岡さんに無理をお願いして、大学で学生たちに
描写力の指導をお願いしていた時期がありました。キャ
ンパスに生息する野草や昆虫などを精密描写する授業で
したが、学生の観察力があまりにも粗雑なのにあきれて、
松岡先生が「チョウの脚はそんな風についてないよ、こ
うだよ」と黒板にチョークで一筆引いた線の表情に学生
たちは息をのみます。その白い線が徹底した自然観察に
基づいた生物学的に正しいという以上に、「生き」てい
ると感じるからでしょう。
松岡さんの仕事は、自然への科学的認識を深めることで、
いっそう心が解放されて、真実に近づいていくように感
じられます。松岡さんにとって自然はたんなる描写や研
究の対象であるより「思いを寄せる」対象だからに違い
ありません。
毎年4月になると胸弾ませて越後川口のアトリエに帰っ
てくる松岡さんは、意中の人との逢瀬を楽しんでいるか
のようです。恋に落ちた画家にはどんなマジックも可能
であるというわけです。
今回の「日本の自然」シリーズは、そうした松岡さんの
自然への恋慕を「日本のふるさと」に託して表現された
ものと言えるのではないでしょうか。


新潟日報「あーとぴっくす」掲載

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