北條佐江子展「記憶の星」によせて
藤由暁男(福島学院大学名誉教授)

「一気に描けました」。いつも悩み抜き、いつまでも描
き込む作家を見続けてきたものとして、どこか吹っ切れ
た様子が感じられた。
前回までの個展は大地や太陽といった精神の根幹をテー
マにした作品が中心で、堅牢で堅実なアンダー系の色相
で構成されてきた。
しかし今回見た作品は「ホウジョウブルー」とも言える
青の世界に統一されていた。平面の一枚一枚は独立した
作品でありながら、組み作品としても成立するほど、し
っかりとした構成である。また平行して制作されたオブ
ジェが、実に楽しい。アクリルで囲まれた小宇宙は、展
示空間全体に広がり、絵画と共振するかのようだ。カン
バスに細く削られていく線が、記憶の中にあるフォルム
となって浮き出てくる。すると、地となる青い面が突如、
奥に引っ込む。その時、3次元の空間が生まれる。絵作
りの巧妙さがうかがえる瞬間だ。明快な線は、白い胡粉
で埋められ、青に対峙した鋭い線となって表れる。
その空間には、虚像と実像の狭間を意識させる仕掛けが
潜んでいる。強く浮き出た線に被るように見えてくる生
命体。揺らぐ植物のようであったり、舞うふたりの形に
見えたりもする。それは安らぎの象徴であり、乗り越え
て得た安堵の姿だったのかもしれない。
大震災で避難してきた家族が帰り、不安の中にも生活を
取り戻した作家の現実が、見て取れるようだ。1カ月で
30点以上を一気に制作できた理由が、見えてきた。


新潟日報「あーとぴっくす」掲載

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