服部翠絵画展「Kie in Nagaoka」によせて
工藤村正(画家)

私が彼女の絵を最初に拝見したのはもうかなり前の事に
なるが、初めて出逢った絵に強烈な印象を抱いた事をい
まだに鮮明に覚えている。
作品にたいして淡々と話をする彼女の想いは瞬間的に時
空を越え、決して多くを説明する必要が無い・・・私は
その時点でその街の一角に引き込まれている・・・錯覚
とは云えない感傷さえ抱いた。
多くの画家の絵を観てきた中で、彼女の絵の中に出てく
る風景や空気は日本の風土には無い独特の雰囲気を醸し
だし、あたかも自由に街を闊歩し、又ある時は水辺で遊
ぶ感覚を呼び起こす。
その街で暮らす人々の息づき、会話までが聞こえてきた
・・・と感じたのは私だけではないだろう。私が驚いた
のはその洞察力と観察、把握力である。
彼女の五感を通した世界を見事に再現する技量とともに、
何とも云えぬ安堵を感じるのは、その優しい色使いと空
気の表現力だ。
そこには彼の地への想いと慈愛に満ちた感性がにじみ出
ている。
五月に仕上がったばかりという最新作「しあわせ」は原
画を元に版画を200枚刷り、売り上げの一部を今回の
震災の被災地に寄付するという目的をもって制作された
作品であるだけに、雪のヒマラヤ、丸い月、大きな菩提
樹、たわわに実がなる木々、青い鳥などが優しい表情の
女性とともに配置され、絵の前にたたずむと、優しい気
持ちに満たされるような心地良い作品である。
素晴らしい四季に恵まれている日本、そして新潟という
深い文化の地で、その大らかな作品は、観る者多くに遙
かな国を物語ることだろう。

ロス・アンジェルス,カリフォルニアより.

新潟日報「あーとぴっくす」掲載

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