上野憲男の紙・展によせて
柴野毅実(北方文学同人)

2005年、京都・何必館での1回目の個展を見たとき
に変ぼうの兆しはあったのかも知れないが、それに気付
くことはなかった。「青の詩人」と呼ばれ、ブルーやブ
ルーグレーを基調とする重厚な作品を描き続けてきた上
野氏が、まさか真っ赤っかの絵や、真っ黄っきの絵を描
くことになろうとは夢にも思わなかった。
しかもそれが、何必館館長・梶原芳友氏の使嗾によるも
のだということを知ったのはつい最近のことだ。梶原氏
は上野氏に原色を使ってみたら、と唆した。上野氏は最
初は戸惑いがあったものの、いつか原色のような熱い高
揚感を覚えたという。また、呪縛から解き放たれたよう
で楽しい気分だともいう。
今になって思えば、何必館に展示された108枚の水彩
の小品に端緒はあった。絵で詩を書くともいえる上野氏
はそれを「俳句のようなもの」ととらえていたようだが、
私はそれを「ライト・ヴァース」と呼びたい。詩人田村
隆一が垂直的で緊張感溢れる作風から、晩年平明極まる
ライト・ヴァースに転じたことを思い出す。1932年
生まれの上野氏は「私の仕事はこれからだ」という。
画家にとって変化こそ必要なものである。新しい挑戦意
欲に溢れた水彩による「原色のライト・ヴァース」の数
々を見ていただきたい。
(新潟日報「あーとぴっくす」掲載) 

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