丸山正三 壁派シリーズ『むしぼし展』によせて
豊口 協(長岡造形大学理事長


詩人の心を持つ医師であり画家・丸山正三の個展である。
具象作家としてスタートした丸山は、第二次大戦のあと、
急激に広がってゆく抽象絵画の世界に刺激を受ける。
かつて、17世紀の後半、西洋音楽の世界にバロックの
時代が訪れたように、この時代は日本の画の世界にとっ
ては、その本質を問いただす激動の時代であった。
丸山正三は40代を迎え、独りの人間としての生き方を、
自分の力と信念でつくりあげてゆこうとキャンバスに向
かった。1957年から制作が始まった「壁派」。他に
はない、氏の人生観から生み出された世界である。
キャンバスという布を捨て、独自の宇宙を表現する下地
を創り出すことに全力を傾注した。壁派の作品は、その
下塗りにすべてがある。ヒル石、ボンド、石膏、白セメ
ント、そして絵の具。これをバケツの中で練り合わせ、
板の上に塗り重ねていく。その1つの工程に、人生の思
いが込められてゆく。そして最後に、丸山正三のイメー
ジが、確かなものとして描かれる。
「頭の中に浮遊しているイメージを・・・。確かに素描
は、私の祈りである」と語っている。
壁のむしぼし展をのぞいてみよう。1つの壁のむこうに、
また別の壁が重なるように続いてゆく。人生は、長くし
も奥深いものだと語りかけてくる。それは、とても静か
で美しい光の世界である。
(新潟日報「あーとぴっくす」掲載)

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