コイズミアヤ展によせて
鎮西芳美(東京都現代美術館学芸員)

1996年以来、「箱」をモチーフの中心に据えて制作
を続けているコイズミアヤさん。木を素材として端正に
構成された箱型の作品群は、一見、隙間なく閉じた印象
を与えますが、実際に箱を開けていくと、あるいは中を
じっと覗いてみると、次々に異なる空間が現れ、見る者
の視線を捉えていきます。小さな扉、廊下、部屋、階段、
檻...。そこに広がる世界は、しかし、可愛らしいミ
ニチュアといった風ではありません。空間を目でたどる
うちに、ふいに奈落に落ち、時に肉感的な塊に出くわし
ます。明るく幾何学的な外見のなかに、何か手触りのあ
る、思いがけない重さも秘めているのです。
日本美術では「その中で遊ぶことができる」作品を高く
評価する向きがありますが、彼女の作品を見る経験はそ
の感覚に近く、見る人をぐっと縮小させ内に誘い込む、
いわば私たちのいる空間と作品内の空間とを反転させて
しまう魅力をもっています。自分がその空間に取り囲ま
れているような、あるいは遙か遠くからその自分自身を
眺めているような。手にとって作品を開いていくと、そ
れぞれのパーツ、それぞれの空間が内側であると同時に
外側でもある、精緻な設計がなされていることに気づく
でしょう。それはまるで、閉ざされつつ開かれた無数の
通路。コイズミさんの作品は、見る者との特別な出会い、
ひそやかな遊びのための装置のようです。世界の成り立
ちを感知したいと願う人の訪れにより、静かに呼吸を始
める作品なのです。
(新潟日報「あーとぴっくす」掲載)

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