矢尾板克則展「NOTE」によせて
滝沢ナオト

風化ー様々な要因で岩石などが変質する作用。英語では
weathering、なるほどウェザリングね。でも、
風化、ネガティブなイメージもあるこの言葉の、思えば
何と詩的なことだろう。
風と化す、のだ。欠損のない、極彩色の、金ピカのもの
より、色あせ、苔むし、錆びつき、経年変化して崩れて
いく、そのさまに美しさを見出す感性を、私たちは受け
継いでいる。
矢尾板克則氏の作品は、その肌合いにえもいえぬ味わい
がある。変色、剥離、摩滅など、時の波に洗われ、風化
したような、その深み。プリミティブでアバンギャルド
な線で字や絵が刻まれているものもある。それらは、声
高に何かを訴えようとすることはない。しかし何らかの
意志が痕跡を残しているので、知らず眺め入ってしまう。
数千年前メソポタミアで彫られた粘土板のように、読み
取れないけれど何かを伝えてくる。人間は、古来何かを
記し残そうとする性質を持つものらしい。
陶板をルーズリーフのように、ノートのように、ブック
のように、仕立てた作品群にはまず発想の妙に驚かされ、
刻まれたかすかな呟きに想いを馳せることになる。そし
て、その造形感覚、色彩、質感、手触りなどに魅せられ
る。時を経て残る美に通じるものを感じさせながら、実
はこのデザイン性やカラーリング、グラフィック、いず
れもまさに現代の感性でしか造り得ないものだ。
誤解を恐れず表現すれば、かわいい&かっこいい。見て
いると目が離せなくなり、手元に置きたくなる。これは、
「いま」を生きる私たちが同時代のものとして胸を張っ
て残せる素敵な遺産なのだ。
(新潟日報「あーとぴっくす」掲載)

***