生命感あふれる表現に変貌 北条佐江子展によせて
藤由暁男(福島学院大学教授)

凛とした山の空気が流れる。自宅には大学時代の実習室
を模したというアトリエがあり、制作現場である。空間
を埋め尽くすカンバスの数々。個展を間近にひかえてい
るとはいえアトリエはさわやかだ。
「大地の詩」は4部構成である。一見、四幅の掛け軸の
ようでもある。画面の上には山か太陽といった、生命の
根源が象徴的に描かれている。一方、作品の支持体は太
鼓張りの木地にしっくいのように顔料を塗り重ね、彼女
を象徴する魅力的な線描が彫り込まれていく。平面であ
りながら彫刻的空間を意識してしまうほどだ。
北条の作品は20年ほど前から見続けてきたが、常に自
身の物語が内在していた。最初に見たころのデッサンや
本画のためのエチュードには、作家としての悩みがスト
レートな姿で現れていた。
しかし、個展を重ねてからの表現には目覚ましいものが
ある。それまで記号的な絵画言語を駆使することの多か
った画面と同様、マチエールも改善され、色彩によって
躍動する生命感あふれるものに変貌した。時には寓意を
秘めたユーモラスなフォルムもあれば、ミクロコスモス
な空間に繊細な人物を登場させる、「生」を追求した叙
事詩には内発的メッセージが一層込められるようになっ
てきた。
加えて、神秘的世界が常に顔を出す。それは北条作品を
読み解くカギともいえ、シュールではない幻想世界の形
象化にほかならない。作品と向かい合った時、主題を追
求すると共に慎重にイメージの昇華を待っていた作家的
姿勢によるものであろう。
(新潟日報「あーとぴっくす」掲載)

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