平野照子展「Diary」によせて
井上美雪(新潟絵屋 運営委員)

展覧会を前に平野さんの制作室を訪ね、ぐらぐらが来た。
作品は以前の流れを汲む、人が「いる」シリーズが続い
ていた。たとえば四方に行き場がある人がいる。十字の
道のどれにも行ける自由を与えられた、あるいは中心に
ただいることを選んでいる、否、どこにも行かないこと
を選んでいるのかも知れない「とある人」。人には表情
がない。表情を「消した」人は、奥に潜む私の幻を引き
出した。とある人と私は幻の場所で過ごした。壁に、地
面に線を引くその人を見ていた。一緒に舟に乗った。重
い空の下に並んで佇んだ。
場所と人がパーツに別れている。作者には置きたい場所
があるのだろうが、完全に接着してはいない。人をどこ
に置くことも叶う。立っていた人を仰向けに寝かせるこ
とができる。明かりと組み合わせた作品もある。
動かせること。灯が加えられること。そのような余地が
意図的に残されている。5分間燃焼のろうそくを灯し共
に眺めた。ろうそくの灯りに照らされた人は光を受ける
と濃い影を落とす。鋭角的な影が伸び、伸縮する光と影
に見とれながら、私の身体と心にもその光と影が映り込
んでいることが示唆的に思われた。
今回は、作者の実際の日記から形をおこし制作したシリ
ーズという。重みも大きさもさまざま、日々いろいろな
出来事がある。時間が経つと出来事は薄れる。それを拒
むように。その正直に打たれ、私はぐらぐらした。
こどもの頃、お人形遊びをしたように、動かない人を見
つめながら、幻の場所に出かけて帰ってきた。


新潟日報「あーとぴっくす」掲載

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