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2008inotsume猪爪彦一展『物語ははじまる―第2楽章』

2008年12月20日(土)―28日(日) 10:00〜18:00
会期中無休, 最終日は17:00まで.

◆ 猪爪彦一展『物語ははじまる―第2楽章』によせて
谷哲夫|学芸員 


今年の個展はこれで5回目だが、年々少なくなってきたと彼は笑う。グループでの発表も数えたら驚異的な回数だと私は言う。また二人で笑う。11月の末に久しぶりに猪爪彦一のアトリエを訪ねたが、芸展出品作「夜のオブジェ」シリーズの2作目が早々に仕上がりつつあった。年を締めくくる長岡での個展には、この大作一対のほか、宵闇の中でひそかに息づく植物、人間の住居の表象たるテントを描いた風景、はたまた彫像のように居並ぶ人間像など、約20点の近作が展示される。
私は、猪爪の絵画が、まずその静寂感ゆえに多くの人々に愛されてきたのだと思う。しかしそれは、決して無音や静止ということではない。画中に微かにたなびく煙や、見知らぬ生物の羽化を思わせる夜のオブジェといった相には、速筆多作のイメージとは異なる、猪爪の生命観想の視座が示されているのだ。ラルゴとピアニシモ。極めて緩やかで弱く在るものたちへの深い慈しみである。
では、こうした感覚が支える表現によって彼が語るのは何か。中型の作品「物語ははじまる」は、良い手引となろう。地平まで並ぶ直方体は、遠近描出から外れた形態で己を主張しながらも、肩を寄せ合う。だがそれらは、瞬時にして目の中で墓石群にも変容する。感覚と知との融合。われわれは形ある一切のものが実は切ない存在であることを忘れがちだが、猪爪の絵画はひそやかに、人間存在の苦、真理を解き明かしているのだ。
彼の柔らかなマチエールや色彩は、常に同胞の気配となって、静かなる知の深淵の刻に、美の、救いの手を差し伸べてくれる。

新潟日報「あーとぴっくす」掲載